Toscana · トスカーナ

ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ

Bistecca alla fiorentina

炭火とTボーンだけで完成するトスカーナの名物。日本でもアメリカ産のTボーンと備長炭があれば、赤くジューシーなフィオレンティーナに近づけます。塩は必ず焼いた後に。

公開日

骨付きビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ、スライスしてシンプルな白いプレートに盛り付けた赤身肉
調理時間
30分
人数
2名分
材料費
約¥5000
難易度
本格的
カロリー(1人分)
約1100kcal

この料理に合うワイン

Cantina →
本場イタリアの一本
赤・辛口 · DOCG

キャンティ・クラシコ

Chianti Classico

ルビー色でチェリーやスミレの香り。辛口で酸がさわやか、タンニンもはっきり感じます。

産地
トスカーナ州
ぶどう品種
サンジョヴェーゼ
造り手の例
  • バディア・ア・コルティブオーノ「キャンティ・クラシコ」
  • フォントディ「キャンティ・クラシコ」
  • リカーゾリ「ブローリオ」
日本で買える一本
赤・辛口 · イタリア・トスカーナ州
アンティノリ

ペポリ・キャンティ・クラシコ

Marchesi Antinori Pèppoli Chianti Classico

チェリーやラズベリー、スミレの香り。酸がみずみずしく、タンニンはなめらかです。

ぶどう品種
サンジョヴェーゼ、メルロ、シラー
輸入元
エノテカ株式会社
ワインショップや輸入食材店で同じワイン
合わせる理由

炭火で焼いた赤身の肉に、サンジョヴェーゼの酸とタンニンが合います。肉汁のうまみを受け止め、口の中をすっきりさせます。

お酒は20歳になってから。

ビステッカの断面、赤くジューシーな内側を見せるスライス、木製のまな板に載せた、レアに焼き上げた肉

この料理について

塩だけで、肉の真価が問われる料理があります。フィオレンティーナはそのひとつです。キアニーナ牛のTボーンを炭火で焼き、仕上げに粗塩とオリーブオイルを回しかける——それだけで完成するこの料理は、素材と火の扱い方に、料理人のすべてが出ます。

フィオレンティーナの名前には、サン・ロレンツォの祝祭(8月10日)にまつわる言い伝えがあります。メディチ家の時代、フィレンツェの広場で大量の肉を焼いてふるまったとき、居合わせたイギリス人たちが「ビーフステーキ!」と叫び、それがイタリア語風に転訛して「ビステッカ」になった、という話です。ただし裏づけとなる記録は確認されておらず、あくまで伝承です。ビステッカという言葉が英語のビーフステーキに由来することは、アルトゥージも著書に書いています。

1891年、美食家・著述家のペッレグリーノ・アルトゥージは著書『イタリア料理大全 厨房の学とよい食の術』のなかで、ビステッカを「骨付きの切り身で、厚さは指1〜1.5本ぶん」と説明しています。フィオレンティーナを語るときによく引かれる文献です。

2001年、牛海綿状脳症(狂牛病)への対策として、EUは月齢の高い牛の背骨を食用から除くよう義務づけました。背骨のついたTボーンは売れなくなり、フィオレンティーナは一時期イタリアの精肉店や飲食店から姿を消しました。トスカーナの人々にとってこれは文化的な喪失と受け止められ、規制の緩和を待ち望む声が各地で上がりました。本来のフィオレンティーナが店頭に戻ったのは、2006年1月のことです。現在も、フィレンツェ市内ではこの料理を単純に「ビステッカ」と呼ぶのが地元の流儀です。

3つのレシピ、ひとつの料理

同じ料理を3つのレベルで。本格にどこまで寄せるかは、あなた次第です。

キアニーナ牛のTボーンと炭火、そして塩。この三つが揃えば、フィオレンティーナは完成します。必要な技術は、火の状態を読むことと、手を出さないことです。

材料(2人分)

材料分量
キアニーナ牛またはマルキジャーナ牛のTボーンステーキ(厚さ4cm以上)800g〜1.2kg(1枚)
粗塩(海塩)適量(焼き上がり後に使用)
黒胡椒(粒から挽きたて)適量(焼き上がり後に使用)
トスカーナ産エキストラバージンオリーブオイル大さじ1〜2(仕上げに生がけ)

作り方

1. 肉を室温に戻す(焼く1時間前)

冷蔵庫から出した肉をキッチンペーパーで軽く押さえ、余分な水分を取ります。皿やバットに置き、常温で1時間ほど休ませます(室温が高い日は30〜40分)。この段階では塩もオイルも何もしません。

なぜ室温に戻すのか:冷たい肉を直火にかけると、外側が焦げても内部が生のままになります。中心まで均一にレアに仕上げるには、スタート温度を揃えることが前提です。

2. 炭を熾す

備長炭か良質な木炭を七輪または大型バーベキューグリルで熾します。炭に火が回り、表面が白くなって炎が立たなくなった状態、つまり赤くほてって熱がゆらめいているのに炎はない状態が焼きどきです。フィオレンティーナは「炎ではなく熱」で焼くものです。炎が立っているうちは絶対に肉をのせません。

火の状態を確認する方法:炭の上10cmで手をかざし、3〜4秒以上耐えられない強さの輻射熱があれば適温です。

七輪は屋外か、十分に換気できる場所で使います。室内での使用は一酸化炭素中毒の危険があります。

3. 焼く(1面目)

グリルの網に肉を置き、何もしません。触らず、動かさず、フォークで刺さないようにします。3〜5分、肉の底面に焼き色が完全についたら自然に網から離れます。網にくっついている間は、まだ焼きが足りないサインです。

感覚的な目安:肉の側面の色が、下から1.5cm程度まで灰色に変わってきたら返し時が近づいています。

4. 焼く(2面目)

返したら、同様に3〜5分焼きます。触りません。この面も網から自然に離れるのを待ちます。

5. 骨を立てて焼く(仕上げ)

骨のまわりの肉にも熱を入れるため、トングで肉を立て、T字の骨を下にしてグリルに置きます。この状態で5〜7分焼きます。

6. 仕上げ(塩・黒胡椒・オイル)

肉をまな板に移し、2〜3分休ませます。粗塩(適量)を両面にふり、黒胡椒(適量)を挽きたてで全体に散らし、エキストラバージンオリーブオイル(大さじ1〜2)を細く回しかけます。すぐにテーブルへ運びます。

なぜ塩は後なのか:塩は吸湿性があり、焼く前にふると肉の表面から水分が出てしまいます。水分が出た表面では焼き色がつきにくく、蒸し焼きに近い状態になります。塩は必ず焼き上がり後です。

7. 中心温度の目安

  • 46〜49℃:火からおろす目安です。休ませているあいだに中心温度が上がります
  • 50〜52℃(休ませたあと):正統なレア(アル・サンゲ)
  • これより温度が上がって赤みが薄れるほど、この料理本来の姿から離れていきます

⚠️ やってはいけないこと

焼く前に塩をふる 塩の浸透圧で肉の水分が表面に染み出し、焼き色がつかず蒸し状態になります。旨みも逃げます。

フォークや箸で刺す 肉を貫くと、そこから肉汁が流れ出します。返すときは必ずトングを使います。

冷蔵庫から出してすぐ焼く 外側が焦げ、内部は生のまま、という不均一な仕上がりになります。

ウェルダンに焼く フィオレンティーナはレアで供するために存在する料理です。よく焼くとキアニーナ牛の繊細な風味と食感は失われます。

柑橘の果汁をかける 果汁の酸が肉の表面を「化学的に加熱」し、せっかくの焼き目の風味を損なうとともに、肉本来の味を覆い隠してしまいます。添えることも本来の様式にはありません。

炎の上で焼く 直火は外側を焦がし、内部の火入れをコントロールできなくします。炭が熾きた状態(無炎)の輻射熱で焼くのが原則です。


よくある質問

Q. 日本でTボーンステーキはどこで手に入りますか?

精肉店や輸入食材店(取り寄せを相談できることがあります)で取り扱いがある場合があります。ただし常時入荷しているとは限りませんので、事前にお店に確認することをおすすめします。Tボーンが入手できない場合は、骨付きサーロイン(厚さ4cm以上)を選んでください。ヒレ側はありませんが、サーロイン部分の焼き方は同じです。

Q. なぜ焼く前に塩をふってはいけないのですか?

塩は吸湿性があり、肉の表面に触れると浸透圧で水分を引き出します。焼く前に塩をふると、肉の表面が湿った状態になり、高温のフライパンや炭火でも焼き色がつきにくくなります。結果として、外側が蒸され、旨みも失われます。塩は必ず焼き上がり後です。

Q. レア(生焼け)が心配です。食べても安全ですか?

厚切り牛肉のレアは、食中毒リスクの観点では表面(外側)の加熱が重要です。炭火や高温の鉄板でしっかり焼き色をつけた場合、表面は十分に加熱されています。中心部の赤みは、衛生的に管理されたチルド牛肉であれば問題のないケースがほとんどです。購入先の鮮度と管理状態を確認することが前提です。ただし、成形肉・結着肉や、筋切り・針打ちなどの加工をした肉は中心まで十分に加熱してください。妊娠中の方や小さな子ども、高齢の方、免疫機能が低下している方は、よく焼いたものをおすすめします。

Q. レアかどうか、どうやって判断しますか?

最も確実な方法は中心温度計です。骨から離れた肉の中心部に刺して、46〜49℃で火からおろし、休ませたあとに50〜52℃なら正統なレアです。温度計がない場合は、肉を指で軽く押したときの感触で判断できます。レアの肉は、手のひらを軽く握ったときの親指の付け根の弾力に似ています。はじめのうちは温度計を使うことを強くおすすめします。

Q. 備長炭と鋳鉄フライパン、どちらがおすすめですか?

七輪と備長炭がある環境なら、迷わず備長炭です。備長炭の輻射熱はヨーロッパの木炭よりも安定しており、炭火の香りも加わります。室内でのバーベキューが難しい場合や、手軽に試したい場合は鋳鉄フライパンが現実的な選択です。鋳鉄は蓄熱性が高く、アルミや薄手のステンレスパンでは得られない均一な焼き色がつきます。

Q. 余ったらどうしますか?

フィオレンティーナは焼いたその場で食べることを前提にした料理です。余った場合は翌日まで冷蔵できますが、レアの質感と風味は大きく変わります。薄くスライスしてブルスケッタにのせる、またはサラダに加えるなどの活用方法もありますが、食べきれる人数分だけ焼くことをおすすめします。